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・・・タイのつづき
タイで出会った大きな蛾。

タイ北部で世界最大の蛾、ヨナクニサンに会いました。翅を開くと大きさは♀は丁度A4の用紙くらいで、♂はB5用紙を少し大きくしたくらいです。東南アジアから日本の沖縄に分布するヤママユ科の蛾です。サンとあるのは漢字で蚕の事で、絹糸の材料となるのを意味します。絹糸と言えばカイコでよく知られており、古代から利用されており、品種改良され家畜化したものです。この種類はカイコガ科でクワコ、インドクワコの改良種が主体で、家蚕と呼ばれてます。
それに対して、野山にいるヤママユガ科の蚕は野蚕と呼ばれております。
昔、釣り糸をテグスといった時代があり、これはヤママユガの繭から糸を取ったものです。この仲間に、サクサン(インド原産)、タルルサン(インド原産)、ムガサン(インド原産)、エリサン(インド〜中国)、そしてヨナクニサン等がおり、それぞれ住み分けをしており食餌も異なり、従い糸の質もそれぞれ特徴がありますが、大体において太いものが多く高級な織物とされております。特にタサルサンからとった絹糸は太く、節があり、シャリシャリ感があり、特に高級なタイシルクに使われているのがそうではないかと思えるのです。ナイトバザール等で安く手に入るシルクのシャツやネクタイ等は、細くしなやかさを特徴とする、インドクワコではないかと想像しております。
ヨナクニサンの繭の大きさは直径2.5cm、長さ10cm位で、成虫から比較すると小さい感じがします。日本の研究者の論文を読むと、繭は3層に分かれており、外側の部分が最も太く、中層になるにしたがって細くなるようです。しかしこのガは数が多くなく、実際産業に利用されてはいないようです。大きい繭であれば歩留まりが好いと思いますが、今のところ、養殖で増やすのは難しそうです。
私たちが採集したヨナクニサンのオスは、生きた蛹の上にじっと止まっておりました。これはよくある事で、メスは蛹の時からフェロモンを出しており、オスは子孫を残す為一番乗りの権利を主張し、メスが羽化するのをまっているのです。その蛹を持ち帰って羽化させようとしましたが、羽化しませんでした。多分繊細なガで重要な時期に刺激を与えたのが原因かもしれません。従い養殖にもそうとう研究が必要なのでしょう。このガは自然界のみしか繁殖できないのではないかと思わずにはいられません。数も少ないので、産業用に乱獲されぬことを願うばかりです。


参考までに、「家蚕のカイコの繭糸は緻密型で、これといった特別な構造を持っていませんが、ヤママユガをはじめとするワイルドシルクの繭糸には、その内部に極めて複雑な、管状構造がみられます。この特徴を持ったワイルドシルクを日傘や、カーテンにすれば、皮膚ガンや日焼けの予防になります・・・さらに之を生かした良質なシルク粉末が開発され、この成分であるシルクタンパク質は悪玉コレステロールを低下させ、パン等に添加するとシルクタンパク質の静菌効果で、カビが生じず、雑菌の発生も抑えてくれる・・・・」(赤地学著 「昆虫力」 より)とあり、自然界のパワーに驚かされます。

♀の蛹に止まっているヨナクニサン
                                    2006年8月10日 タイ・チェンマイ

♂が止まっていた♀の蛹


会長の独り言(その十六)
                          閑話休題