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兵は詭道なり

此の度の尖閣諸島における中国側の姿勢は日本人にとって極めて不愉快な感情をあたえたものである。

何ゆえにこのように中国は頑なになってしまったのだろうか。

理由は2つ考えられる。

1.中国国内の内政上の問題がある。現在の中国は経済成長は著しいものがあるが、貧富の差が一層拡大し、社会全体で「不公平感」が蔓延している。今やいわゆる「国進民退」現象が顕著になり、国営企業は益々富、民間企業を圧迫し経済・社会の矛盾を拡大している。国営企業の平均賃金は民間の3〜5倍あり、トップクラスになると1千万元超が当たり前で、其の背景には政府と国営企業との癒着があり、富めるものは富、それにむらがる役人の腐敗があり、富に預かっている現実がある。ために「弱勢群体」とよばれる貧しき民は不満がつのり、各所で労働争議を含む治安事件となって其の規模は2009年には990万件にのぼっている。

この集団がまとまったら「暴動」に発展しかねないのである。かつて中国の歴史で帝国が滅ぶ末期的症状はまさにこのことであり、漢帝国、明帝国、清帝国のような300年続いた帝国の崩壊の原因はいまここにあるのである。近年では共産党の台頭がそうであった。

当然現政府は歴史を学んでおり、危機感を持っている事は間違いない。この危機の回避は国民の愛国精神を高揚させ、1つに統一する為に国民の関心を外に向けさせることである。毛沢東時代、アメリカを仮想敵国としたり、ソ連を修正主義と批判し国民の目を外に向けさせたことの再現である。

そこにタイミングよくこの事件であり、中国トップとしては正にこの事件を「奇貨」にしたとしても不思議でない。国際的にも中国側の傲慢さの批判をものともしないところにお家の事情がありそうである。

  だとすると時間が解決するしかなく、こちらは沈黙を守った方が良い。

一般論として、今回の中国側の執拗な姿勢が国内の民衆へのアピールであったとしたら、それ程中国国内が問題多く、分裂や暴動の危機にあることを露呈したことになる。いまや中国は砂上の楼閣、張子の虎になりさがることになるのである。

2.もう一つの考察として。一連の中国側の言動や、釈放された船長の態度や中国側の英雄を迎えるがごとき映像を見るにつけ、「これは、中国が演出した正に謀略である。」と疑いたくなる。なぜそうしなくてはならなかったか。大きな理由は尖閣諸島付近に眠る海底ガス田の事実上の占有である。日本側とこの付近の海底ガス田は中国側の主張する自国領土と日本側との折り合いで、日中共同で相談しながら協力してゆく協定を合意している。しかし基本的には中国側にとっては自国の領土を主張し是を大前提としているので日本との協定は本音のところでは合意しているわけではない。

其の証拠にガス田の更なる開発の爲の資材を日本側との協議なしで進めている証拠がある。この事実の背景で今回の事件である。中国側はなんとしても尖閣諸島は自国領土と認めさせるためには、既成事実化することである。それには何をやればよいのか。そこで漁船に尖閣諸島での漁をさせ日本側とのトラブルをでっち上げ、それをねたに領土問題を一挙に有利に展開する戦略であったとしてもおかしくない。

なんといっても中国は「孫子の兵法」の国である。「兵は詭道なり」とあるように騙す事によって戦わずに勝利に導く、即ち謀略戦術である。色々な情報の中で、中国国民は日本大使館へデモにより対日感情を煽り、過激な行動をとっているーこれも多分に政府指導の匂いが感じられるー。孫子は言う「民衆の意見を同化させることこそ、内政の正しさである。」、従い中国指導者にとっては日本側への圧力は正に「道」にかなう行為であり大義名分が立つというものである。「算なきは戦わず」とあるように、今や世界第2位のGDPとなった経済は「自信」となり、東アジアに於ける核兵器を有し、空母の建設や軍艦の増強は比類なき海軍軍事大国となって計算しても負けるわけがない。今回の事件で日本の大使へ夜もたがわず呼びつけたり、軍事力を傘に恫喝する姿は、今や日本は中国の下位にある国としてしか認めていない意識が表れている。

まして中国に進出している日本企業は人質と化している。輸出入品の過度な検査は姑息な嫌がらせであり、

レアーアースの実質的禁輸措置― 政府は公式に禁輸措置をとっていないといっているが、これはWTOに提訴される事への予防であり、誰も信じない。― は人質をとっての外交となんら変らない。観光交流についても、懸案の二国間の経済関係含め、協議事項延期。全て日本の「弱いところをつく」戦術。さらにこの同じ時期にフジタの社員が大戦時の不発弾処理(埋設処理した)の調査中に、軍事施設のスパイ容疑としてしか思われないでっちあげで拘束され本来の人質外交を展開している。(中国側曰く「国内法にのっとって拘束」と言っているが、日本も今回の事件は国内法にのっとった処置である。)

ことほど左様に今回の中国側の行為は「孫子の兵法」そのものである。

翻って、事の発端の領土問題は歴史的にも国際的にも1885年より実質的に日本の領土であり、明治、大正、昭和の時代に産業を起こした実績が実効支配の歴史がある。中国は自国領土の主張は大陸棚の延長と言っている他、台湾の領土の一部であり、台湾は中国の領土である、故に中国の物であるとの理屈をのべている。しかも尖閣諸島周辺海域に海底資源が見込まれた直後の1970年代に騒ぎ出したのである。

さらに言わせてもらえば台湾そのものは元々固有の民族の集まりの島であったのを、明の時代に征服し、我が物としていたが、清の時代にはなんら統治したことはなく、オランダが上陸、統治し始めた折にあわてて再統治したが、過酷な政治が続いた。ということは偉そうに台湾は我が領土と主張するには余りにも説得力に欠けると思うのである。このぶんだと、「琉球は我国の朝貢国であり我国の属国であったので中国の一部である。」と言い出しかねない。

1にしても2にしても結局は行きつくところ。今回の一連の行為で、「孫子の兵法」の使い方を間違った事は「敵国と友好国との同盟関係を断ち切る」事の戦術はなく、寧ろ逆に日本と同盟関係にあるアメリカの顰蹙を買ったし、一層中国への脅威は日本、韓国との同盟強化に繋がる事間違いなく、更には国境を接する東南アジアの国々にとっては「明日は我が身か」と脅威の国と映ったのである。

我が国にあっては中国側の「謝罪と、賠償」の問題が出されるにいたっては、おそらく全国民が不愉快になり、嫌悪感に変わってきたことであろう。

2年前の餃子事件の日本側犯人説を主張し、中国側に犯人が現れるに及んで大恥をかかせられたとの怨念も手伝って今回ついでに其の分の恥を雪ぎたいと思っていたとしたらもう何も言えない。

中国の「韓非子」の世界を髣髴させられる。

中国の春秋戦国時代多くの国が覇をとなえ競った時代、「鼎の軽重を問う」の故事があるように、周辺の競っている国々から尊敬される国を目指すのが王の姿勢であった。ひとたび王が驕り高圧な態度を示そうなら、重臣達が諌め、「徳を積む」ことを勧めたものである。あの偉大なる歴史と思想を有した国は何処に行ったのであろうか。

多くの人は言う、「共産国家は北朝鮮を含め信頼出来ない。」と言う事は正しくない。イランは共産国家ではないが同じように脅威の的である。共通は「独裁者或いは1党独裁政権」なのであり、民主主義の世界で平和を享受している国にとってはいかに中国が異質で脅威を与える存在と映っているのは自然であろう。

中国が自ら言う「アメリカと並んで2大国家」の役割の重大な理念こそ、他国から信頼され、尊敬される言わば「王者」になるはずである。

それにしても我国は『敵を知り、我を知れば百戦怪しからず。』と言い、中国の歴史からはぐくまれたしたたかさも知らず、中国の術中にはまったのである。日本人はいかに人が良いか今回の事でよくわかる―これは皮肉でなく誇りである―。

靖国神社問題も毎年毎年に言い続け、ついにはアメリカまでも動かした戦術をみるべきで、今回是に謝辞を表明したり、まして賠償金を払うようであったら、其の時は尖閣諸島は中国領土となる。次はおそらく南京問題を持ち出し、賠償金へ発展するであろう。

今中国の騒いでいることは先に述べたように、寧ろ国際的には反発と、脅威となり、自ら首を絞めているのであり、

いずれは国際社会から審判を下されるであろう。

今後我国も孫子を研究し、中国の好敵手であるインドとの外交を強化するとともに、アセアン諸国の外交を深め味方を増やすべきで、国連常任理事国の道を開くべきであろう。

また、出来れば領土問題は国際裁判にゆだねることこそが肝要でないか。

江戸時代の碩学「齋藤一齋」先生が言って居ります。「人情の向背は、敬と慢徒に在り。施報の道も亦忽せ(ゆるがせ)にすべきに非ず。恩怨は或いは小事より起こる。慎むべし。」。個人にかかわらず、為政者いや国の品性も同じなのである。

中国に読ませたいものである。中国の傲慢、慢心は王者にはなれないのです。                             

拝啓、中国様、日本人は我国に滞在している中国のお客様に決して害を及ぼすことはありませんから、ご安心を。

なんと言っても、我国は儒教の影響を受けた国ですもの。敬具




                                               平成22年9月29日



会長の独り言(その五十六)
                         閑話休題