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  タイの運転手

タイへは「タイに於ける蝶の分布調査」を目的に1999年より14回訪れている。
偉そうに調査と銘打っているが、ようは蝶の好きな数人が日本の蝶はもう採る物なく、たまには海外の蝶でも採りたいものだと始めたものである。最初に治安のよい国、移動が容易なところと言う事で、先ず手始めにタイへ行ったところ、その種類の多さ、亜熱帯の種の美しさ、それにも増して、食べ物の美味しさ、人のよさが次回も時期を変えて又来ようということになり、すっかりタイにはまってしまった訳。いい年寄りが蝶の蒐集なんぞという非経済的の極致に少しでも、大義名分をと言う事で「・・・分布調査」と後付で付けたものである。14回を数えるようになり、瓢箪から駒のように真剣にも、あるいはけなげにもこの命題と取り組み、データーも半端なものではなく、無謀にも新しい知見等とのたまう様に進化してきた。

これだけ場数を踏むと、チャーターする運ちゃんの採集方法も手馴れたもので、蝶紀行が成果が上がるか、だめであるかはこの運ちゃんによるところ大である。
空港に降り立っての最初の仕事は、この運ちゃん探しである。先ず第一に、英語がほんの少しでも理解できること。例えば行き先、時間、トイレ、お金の単語を最低理解できればgood。
チェンライの運ちゃんは、今や我々の立派なアシスタントであり、ナビゲーターでもある。
アブドラ・アヌラック氏、パキスタンからタイへ移り住み20年になる、イスラム教徒、50歳をとうに越えたと思われる、顎鬚をたくわえた大柄な肉体は、豪傑の感がある。しかし目が優しく親しみ易そうで、人のよさをただよわす。とてもあのタリバーンとおなじスムリスとは思えない。又個人タクシー(10人乗りステーションワゴン)であることが自由でよい。英語は我々のタイ語程度より少しまし、いやだいぶましか、かなりの単語が分かるし読める。
我々の蝶採集に興味を示し、「ネットを貸せ」と行く先々で我々の採り子として活躍。我々が常連になった、3回目の‘06.8月の時にはすっかり我々のメンバーとなり、採り方も上手になり、その上、蝶が沢山いそうな場所を選び、車を止め、「此処はどうか」となかなかのもの   と言っても、身振り、「stop?Ok」程度であり、勝手に解釈しているのであるが   、しかも釣りでビギナーズラックという言葉があるくらいで、やはり無心の蝶果で珍種を採ってくる。始めのうちは手当たり次第、沢山いる普通種を、どんどん持ってくる、羽が壊れていようがいまいがおかまいなし   もっとも我々が初めてタイに来たときもこんなもんであった事を懐かしく思い出す   、こんなものを持ってきたときは、「broken・no good」と言って、目の前で放してやる、同じ種ばかりだと、「same・same・enough・no more」と言えばなんとか通じる。期待の蝶が採れたときは「very good very good」とか「you・good・collector・number one!」単語を並べるのだの感謝と、おだてあげる。そのうち学習効果てきめんで、教育的指導が必要なくなったものである。そこで1階級昇進で、予備に持ってきた三角缶と三角紙を預けて自由に採ってもらうことが出来るまでになった。
此の時から、彼の28歳になる息子ミンちゃんがアシスタントで加わる。英語はアブちゃんより話す、ずっと便利になった。しかし蝶採集には若いくせに父親を超えることはなく、アブちゃんがとる3分の1程度。サービス精神の差か、興味の差か。どちらも親父さんの方が勝っている。昼と午後にはメッカのある方向に向かって絨毯を敷き、しばし礼拝、こんなときの彼らは信頼をおいてもよい人たちと思わせる。チェンライからチェンマイまで付き合ってもらい、結局1週間となった。費用は一日2000バーツ(約¥6000)+ガソリン代、メンバーで割れば安いもの。彼らにとっては大変な収入であろう、彼らのサービス精神と、誠実さを思えば申し訳ない金額かもしれない(因みに、プーケットやバンコックのメジャーな観光地ではこの金額の2倍〜3倍は覚悟しなければならない)。お別れに、再会を誓い、ネット一式、三角缶、三角紙を置いてゆく。

後日、9月になったら郵便小包が届いた、中には三角紙にはいった蝶が沢山入っていた。お礼の手紙と共に、dataを付けるアドヴァイスと、次回はプラスチックケースに入れて、我々が次回行くまで冷蔵庫に保管するようにと、お菓子と一緒に送ってあげた。そして2ヵ月後又、蝶が件のプラスチィックケースに入って送られてきた、「喜んでくれるか、全部自分の家で、11月9日に採った。9月・10月は雨多くてだめだった。三角紙無くなった、送れ。」とのミンちゃんの英語の手紙と共に。嬉しいではないか。中には普通種ばかりの30頭くらいの蝶に混じって、小生が採った事の無い種が幾つかあり、ネットを振っている姿を想像しおもわず顔がほころぶ。思わず「very good very good」を繰り返しいいながら。再び、お菓子と、三角紙を件のケースに入れて送ったものである。

本当は今回の蝶紀行の最大の収穫は、このアブちゃん親子かも知れない。多分これからも蝶仲間として付き合える人たちであろう。次回にはどの位進化しているか楽しみである。


会長の独り言(その二十一)
                          閑話休題