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  「たかが蒟蒻、されど蒟蒻。」
これは山形、上山市楢下宿にある丹野蒟蒻店のキャッチフレーズ。
20年も山形に通っておりながらこのようなお店があるとは知りませんでした。
山形とはそういう所で、伊達政宗が仙台に移ってから、国造りにおいて、のんびりな風土になったようであります。
この様なお店は、土日は県内、近県の観光客で結構な賑わいを見せておますが、山形の誇るべき食文化のパイオニアで、もっと、観光名所としても東京を始め、県外へ宣伝しても良いと思うので、小生が成り代わり宣伝にあい勧めたくおもう次第です。

蒟蒻といえば、35年前のドラマ、上州新田郡三か月村の生まれ、渡世人「木枯らし紋次郎」が、『あっしは、小さい頃、食い物と言えば、蒟蒻ばかりで、それ以来蒟蒻がきらいになりました。』と言うせりふが思い出されます。それ以来蒟蒻といえば上州・群馬県の名産として有名になったものでありますが、今や山形県が日本一の生産県なのですが知る人は少ないのです。
山形の名産と言えば、なんといっても手打ち蕎麦、春の山菜、夏のさくらんぼ、秋のきのこと芋煮、冬のリンゴとラフランス、そして米沢牛が有名ですが、此処に蒟蒻懐石を付け加えさせてください。


上山駅から、車で20分の羽州街道に、楢下宿という部落があります。
1602年に設けられた宿場で、1635年の参勤交代の制度と共に、発展したようです。
奥羽13藩の諸大名ばかりでなく、出羽三山帰りの参拝者は、最も標高の低く、冬は積雪が少なく、夏は杉林の涼しい道を利用し、金山峠を抜け宮城県側の現在白石市に抜け、かつての江戸への5街道の一つ奥州街道に出るため、この最後の宿場は大いに栄えたと案内書にあります。このように旧い歴史を持つ宿場街で現在も250年前の民家や、脇本陣が数件残されており文化財として、保存されて往時が偲ばれます。これ等の建物は街道に沿って点在しています。自由に見学が出来ます。建坪はせいぜい大きくても100坪位です。茅葺屋根の重厚さと、梁の立派な建物で、多くは天井が無く、合掌つくりのような感じです。壁は漆喰で、ふすまは板張り、入口は低く、かがまないと入れません、すぐ土間があり、畳のある部屋がいくつかあり、廊下も無く部屋が繋がっております。裏口には厩があり、時代劇に出てくる2階造りの廊下の有る、旅籠の感じではありません。それだけに地方の山裾にある宿場街としてリアルさが一層感じられる風情のあるたたずまいです。
藤沢周平の世界です。


楢下宿の脇本陣を勤めた旧家の丹野家があり、この旧い街並みに旧家風の「蒟蒻番所」があります。
創業は昭和初期とあります。蒟蒻を生産し、販売もしております。しかし此処の名物は、50種以上の豊富で美味しい蒟蒻はもとより、それを生み出した蒟蒻懐石料理が素晴らしいのです。
2,100円のコースを頂くことにしました。
先ずクラゲの和え物にびっくり、食感は正にクラゲ、元々クラゲ自体特徴の有る風味はありませんが、独特のコリコリした食感がたまらなく酢で和えたり、味噌で和えたりして食しますが、これは梅ぼしあえ。これに驚いていると何んとフカひれの姿煮があります、半円で扇状は、正にフカひれ、フカひれの独特な繊維まで表現してあります。醤油とだしのきいた餡は中華料理そのもので、これが又おいしく、うならされます。次から次に出てくる料理は、本当に蒟蒻かと疑いたくなるものばかりで、一緒に副えられている野菜やサザエもみな蒟蒻と錯覚され、本物との見極めが大変です。此処まで来るともう芸術のいき、なるほど「されど蒟蒻」の世界が展開されます。うなぎも、イカさし、さらし鯨、甘エビのさしみ。皆、形も食感、味付けも本物。それにしてもとことんこだわった料理で、アイデアと着想にただ感動のうなりをあげてしまいます。傑作なのは葱間になっている焼き鳥で、口に入れるとあの焼き鳥の香りと共に、鶏肉の感触、目隠しをして食べさせられたら、全員が本物とだまされる事間違いありません。
磯部巻きはお餅そのものです。もち米を蒟蒻に潜ませたアイデアには、あたまが下がります。貝柱のフライは、噛むと貝柱の独特な縦の繊維が現れ、貝柱の香りをしみこませた手の込んだ仕儀にごめんなさいと言いたくなります。
最後は蒟蒻そばでそば粉と蒟蒻とのマッチがたまりません。
13・4種のコースですが、昭和61年より研究を重ねた料理は、次は何が出るかと、期待感でどれも美味しく最後まで箸が止まらず、微笑んだり、驚いたり、感動したりと蒟蒻マジックにハマってしまいます。
当たり前の懐石ならお値段と共にカロリーも相当高くなるのですが、その点、満腹でもカロリーを気にする必要が無く、その上リッチな気分にさせてくれ、庶民派のメタボリックシンドロームにどっぷりつかっている小生には嬉しい限りです。
小生の頂いたのは2,100円コースですが、最高の4,200円のコースもあり、二倍楽しめるのかもしれません。コースは1,000円からあるそうで、蒟蒻蕎麦や田楽などの単品も楽しめます。他に喫茶室が設けられており、スウィート蒟蒻が専門です。ラフランス蒟蒻ゼリーや、蒟蒻シャーベット、蒟蒻ケーキ、蒟蒻善哉とアイデアいっぱいのスウィート蒟蒻が楽しめます。手間を考えると素材そのものの製作から、料理一般の懐石料理の倍の手間がかかっているはずなのに、このお値段と、工夫に職人の意地が感じられ、あらためて「されど蒟蒻」の意味を噛みしめております。おらが村の大先生、斉藤茂吉翁が健在なら、この懐石料理を楽しみ、短歌の一つでも残して下さっていたら、きっと日本中で有名になってること間違いないと思うと残念です。

新しい観光スポットで、大自然の蔵王のお釜を見て、楢下宿にて江戸時代にもどって、この蒟蒻懐石で締めくくるワンコースは如何でしょうか。

山形に来てけらっしゃい。


会長の独り言(その二十九)
                          閑話休題