ー戻るー

メタンハイドレード

情報誌を読んでいたら、「天然ガス『高値買い』する日本」と言う記事に目を通し、其の実態に驚いた。ちょっと長いが引用させてもらう。「年間6800万トンと世界最大の液化天然ガス(LNG)輸入国である日本は、現在LNG1トン当たり5万円(CIF価格)、百万英熱量(But)当たり10ドルで購入している。産ガス国に対する支出総額は年間3兆5千億円に上っている。ところがシェールガス(頁岩―けつがん―という固い岩盤に含まれるメタン)を中心とする「天然ガス革命」の結果、LNGの国際スポット価格は百万But当たり4ドルまで下落した。それでありながら日本は、単純計算で百万But当たり6ドル、年間輸入量を掛けると2兆円以上も余計に払っている。・・・」

と言う記事である。
この価格は当然電気料金や都市ガス価格に影響し高い料金を払わされていると言う事である。

シェールガスを含む非在来型天然ガスは在来型天然ガスの5倍以上の資源量に上るようである。アメリカはもとより、中国、ロシアを始めEU諸国にも多く大量に存在しており今後の開発状況によれば価格は3ドルに近づくであろう。このような世界的な天然ガス革命が進行している中わが国日本は2兆円もの垂れ流しをしているのにメディアは何も国民に知らせていない。この高値での日本の購入は世界の市場原理を無視するが如く続けられている。

「なぜこの国益に反する政策がまかり通るのか。其の原因は先ず、政権与党の民主党にエネルギー問題に精通した政治家が一人もいないことである。」と記事は伝えているが、現実を知らしめないメディアの責任と、官僚実務者の不勉強か、故意に伏せておいているのか、いずれにせよ責任は重大である。「現燃料費調整制度」で守っている暴利をむさぼるエネルギー関連大手企業は、官僚の天下り先の重要なお客である。企業にとっては寡占状態のうえに、この制度が守ってくれているので、何も自社に多額の利益を減らしてまで安く海外市場から調達し自ら価格を下げる必要性は感じないのであろう。(この制度は輸入したLNGの購入コストに適正利潤を乗せて電気・ガス料金を決めることで、電力会社や都市ガス会社の便乗値上げを防ぐ、一見もっともらしい制度である。天然ガスが不足していた時代には一定の意味があった。ところが、現在天然ガスの供給過剰が長期間続き、これからも安値で推移するという時代では、もはや競争原理を邪魔する無用な制度になっている。)

こんな政府の認識ではエネルギー安全保障の重要性と、国民が享受できる利益と言う観念から乖離していること甚だしく、いまある省エネ、クリーンエネルギー対策、地球温暖化防止推進と言う命題がなんとも空々しく聞こえるではないか。

そこで提案だが、多くの国民が認識していないエネルギーがあるのである。既に東シナ海のガス田は日中で共同開発が合意したことで広く知られるようになったが、「日本の太平洋側、静岡県の沖合いにメタンハイドレードが眠っている」ことは知られていないのである。「水分子の格子の中にメタンの分子が取り込まれた氷状の物質で、自然界ではシベリアの永久凍土の中で、1967年に発見され、海底下での発見は1977年である。

海底では50気圧水深500m、100気圧水深1000mの地点は、温度が6度から12度以下になるとメタンハイドレードが生成される条件が整う。まさにこの条件が静岡県沖なのである。1999年の御前崎沖50km、水深1000mの東部南海トラフで試掘を行いその結果、その原始埋蔵量、すなわち地層内に存在する全量は40兆立方フィートで、このうち生産性の高い埋蔵量は20兆立方フィートと推測された。総合的に見て、日本周辺にあるメタンハイドレードの推定埋蔵量は石油換算430億バレルに相当し、日本の天然ガス消費量の200年分以上になる。」

―世界が分かる石油戦略(岩間敏)著より―

このことは2001年に国家プロジェクトの「メタンハイドレード開発計画」がスタートしている。目標は2016年に商業的に生産する技術を確立する事である。現在コストと安全性、生産性を比較した回収方式の技術的研究がおこなわれている。このことを知っている国民はどの位いるであろうか。筆者も最近知ったばかりである。

実際このプロジェクトが成功すれば、石油・天然ガスの資源を持たない我国は、一転したクリーンエネルギー

生産国・輸出国へと大変身を遂げる事になり、それに伴う技術は国際特許となり、一大収入をもたらすことになる。ひいては現在抱えている財政赤字も早い時期に解消するかもしれないのである。正に、日本でも天然ガスエネルギー革命が始まろうとしているのである。それには進捗を早めなくてはならない。垂れ流しの天然ガス高値買い2兆円分をこれにつぎ込めば、もっと早まるのではないかと思うのである。或いはこれ等の開発資金は郵貯の200兆円の正に有効投資先としてはいかがであろうか。

国の戦略的観点からも、又このプロジェクトをエネルギー安全保障の位置付けからも優先順位の上位にし、予算仕分けの縮小対象にせず、世界一の技術を目指すべく、明確に目標値を示し、広く国民へ知らしめる事が先ず重要である。

この事はさらにこのプロジェクトに携わる技術者含め、関係各人の意識の高揚と、義務への責任感を高める事につながるのである。PR活動含め環境を整える事こそ肝要なのではないだろうか。

さすれば国が一丸となってこのプロジェクトを育成し、見守ることになるというものである。

「はやぶさ」にみるイオンエンジンの実績は宇宙技術の高い世界的評価となり、国民の誇りとなったように、メタンハイドレード開発も海洋国家として、海に精力を傾けることこそ資源国家の夢がかなうと言うものである。

トーマス・カーライルは言う「人生に於ける大きな仕事と言うのは、遠くにぼんやりと何か横たわってみる事でなくて、手元にはっきりと横たわっている事をなすことである。」

国家の大事も同じである。



会長の独り言(その五十五)
                          閑話休題